第18回日本褥瘡学会学術集会に参加して(Ⅴ)

日付: 2016年11月29日

【亜鉛補充療法による全身療法ではポケット(死腔)の形成は大きな問題にならない。】

 

 

今回の学会での大浦武彦先生の教育講演で

『シーツの縒れの褥瘡に及ぼす影響や死腔の形成を見逃さないように』とのお話は、

確かに、“非健常で脆弱な皮膚” に対して、除圧やポジショニング、体位交換やシーツの整え等々の看護介護、ドレッシングや軟膏療法の局所療法等で、褥瘡が進展しないように注意深く適切な対応処置をすること、とても大切なことはよく判る。

 

褥瘡の治療でポケット(死腔)を形成させないことは大切なことである。しかし、2002年に、褥瘡の亜鉛補充療法に気が付いて以来、大きな死腔の形成を防ぐことは当然であるが、ポケット形成に余り細心の注意を払わなくても良くなった。

 

創傷治療にポケット(死腔)を作らないことは外科医のABCであった。

創傷の治癒機転に大きな問題のない創でも、直腸切断術のような大きな欠損創にはヨードホルムガーゼを充填して死腔を形成しないように、徐々にガーゼ量を少なくして、肉芽を上げることはしばしば経験をしたが、それで問題はなかった。

 

一方、膿胸の死腔形成は、胸腔内の陰圧が問題で、充填術等の特別の処置を必要としたし、糖尿病壊疽の踵部の瘡は、開放創にもかかわらず、壊疽が奥深く進行して、創面が蕩けるように崩れ、死腔を形成して、治療に苦労した記憶がある。

 

 

確かに、2000年、診療所医師として当地に赴任した当時は、本当に数々の難治の褥瘡の治療を経験した。

当時、シーツの縒れにまでは気が付かなかったが、臀部の巨大な死腔を形成した褥瘡には、注入方法を工夫し、イソジンゲルを充填し、長期間かけて死腔を縮小させた経験がある。

この患者はその後何カ所か褥瘡の発症が繰り返し、繰り返しあったが、亜鉛補充による全身療法をする様になって、あれほど繰り返し発症した褥瘡はいつの間にか発症しなくなり、頻回の体位 交換も不要となった。

 

かなり広範囲に感染とポケット形成を伴って、受診した最近の症例を呈示する。

 

 

 

 

 

 

その後も当分はポケットの形成をしない様に、ポケット形成の可能性のある褥瘡では、出来るだけ大きな切開口を開け、切開口の閉鎖に注意し、ドレナージを極力継続したが、亜鉛補充療法では瘡が深部から全体で締まって、早期より細い瘻孔となる傾向で、切開口も早々に閉鎖する。

 

この瘡の治癒の仕方は、創傷治癒機転に異常のない外科の創傷治癒、例えば直腸切断術後の巨大な欠損創の治癒と殆ど同じと言ってよいと考えるが、如何なものであろうか?

 

 

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以下の症例は仙骨部に広範囲な感染と膿瘍を形成した褥瘡である。

亜鉛補充療法により創傷治癒機転が高まると多少のポケットの形成があっても治癒していくことに気付かされた2007年10月の症例。

 

 

 

 

 

論理的亜鉛補充療法により、表皮・真皮・皮下組織の皮膚の健常な創傷治癒機転が回復すれば。

褥瘡も一般の外科的創傷治療と大きな変わりがないことを示していると考えるが如何なものであろうか?
日本褥瘡学会の諸会員に、それぞれの現場での緻密な追試と検討の上、厳しいご批判を

是非、是非いただきたいものと思う。

 

 

 

以上