第18回日本褥瘡学会学術集会に参加して(Ⅰ)
日付: 2016年9月20日
【500ページもの分厚い抄録集中に、「亜鉛」の文字はたったの五カ所に驚く!!】
9月2日、パシフィコ横浜で開催された第18回日本褥瘡学会学術集会に参加しました。
褥瘡は、2002年に私共が気が付いた、多数で、多彩な症状・疾患の亜鉛欠乏症の主要な疾患の一つです。
褥瘡は欠乏症ですから、他の多くの亜鉛欠乏症と同じく、
安価で安全、且つ簡単な亜鉛補充療法で、比較的容易に治癒に導き、予防することも可能です。
亜鉛欠乏症の知見は、亜鉛不足のためとは知らずに悩み苦しむ多くの人々の疾病の治療のみでなく、一般の国民の健康や保健にも大きく関わる重要な問題と考えて、臨床や基礎の学会での発表、論文や文書・書籍、亜鉛欠乏症のホームページ等や全国各地を巡っての、医師会・大学や病院等の研修会や一般の諸集会等々での講演と、あらゆる機会を捉えて、その周知に努力してきました。
亜鉛は、その様に、生命に必須なミネラルでもあります。
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勿論、褥瘡学会関連についても、2008年の関東甲信静の地方会や関連の諸セミナー等の種々の会から、全国では2011年の福岡での第13回、2015年の仙台での第17回の日本褥瘡学会学術集会で、それぞれ一時間のランチョンセミナーで周知に努力してきました。
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さて、その結果です!!
今回の第18回の学術集会の分厚い抄録集に、「亜鉛」の文字がたった五カ所であることに全く驚いてしまいました。強引な我田引水的な見方をすれば、
「褥瘡の主要因は亜鉛欠乏による皮膚の代謝障害である。」ことを知って、
「亜鉛補充の全身療法と適切な局所療法をすれば、褥瘡は比較的容易に治癒せしめうる。」
と実践している医療者は現場で満足し、褥瘡学会に参加して来ないのだと、、、。しかししかしである。
広大な教育講演会場に詰めかけた多くの聴衆の真剣さと熱気から、また口演会場の議論からは、必ずしも容易には治癒に導けない現状の局所療法に加えて「何か新たな局所療法の技術があるのではないか?」と局所療法の技術面にのみ意識が集中して、生体の有する創傷治癒の機序への探求・思考が、学会としてはやや不足と感じたは、僻目でしょうか?
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本学会では、その数少ない「亜鉛」に関する演題の五題中二題が、十五題の優秀演題賞の中に選ばれ、まとめて発表されていたので、その聴講と学会初代理事長の大浦武彦先生の『創面は語る~一歩進んだ褥瘡の見方~』や『治る褥瘡外用薬の使い方』、『ドレッシング剤を使い分ける』の教育講演やポスター・セッションで勉強させていただきました。
それぞれの教育講演は長年の臨床の現実と向き合っての経験と緻密な思考の集積で、大変見事な教育講演と敬服しました。しかし、あの広大なパシフィコ横浜の学会場に群れ集う多くの学会参加者とあの国立大ホールをほぼ埋め尽くす大浦武彦先生等の教育講演に集う聴衆のあの真剣さと熱気は、よく言えば日本褥瘡学会の隆盛さを示すものであり、皮肉に言えば、まだまだ、日本褥瘡学会は褥瘡を制していないと言えるものと私は思いました。
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「学会が疾病を制する」等と傲慢なことは到底言えることではありませんが、大浦先生や多くの先人達が判らないことだらけの中で、臨床の現場で着々と積み上げた事実と経験、仮説と緻密な思考から生み出された『除圧と創傷治癒阻害因子の除去』の局所療法の技術と理論、そして褥瘡と戦う組織とシステムを作り上げつつある褥瘡学会には心から敬意を表する者です。
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しかし医療の現場では、現在の局所療法のみの褥瘡治療に、多くの看護師・介護士や栄養士達が悩んでいること、そこに医師の参加が少ないこと、そして、本当に悩み苦しんでいる多くの患者さんの存在を踏まえて、日本褥瘡学会への参加シリーズとして、『褥瘡と亜鉛と学会』につき、書くことにします。
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