第18回日本褥瘡学会学術集会に参加して(Ⅱ)
日付: 2016年9月29日
【亜鉛に関連しての2題が優秀演題賞に選ばれた】
400題を超える口演、ポスターの一般演題の中で、亜鉛に関連した演題はたった5題であったが、そのうちの2題が、15題の優秀演題賞の中に選ばれていた。
『回復期リハビリ・療養型混合病棟への新規入院患者の持ち込み褥瘡や皮膚脆弱性と血清亜鉛値の関連の検討』
:明倫会日光野口病院・目黒浩昭先生等の演題①と、
『亜鉛キレート形成薬剤の褥瘡治療期間に及ぼす影響』
:湘南鎌倉病院・長岡和徳先生等の演題②である。
①では、
「上記病態を有しZn値の低値を認めた患者には亜鉛負荷を行い全患者で皮膚脆弱性の改善・褥瘡の治癒を認めた」と、
②は
「我々は当院褥瘡発生患者を対象に亜鉛キレート形成薬剤の褥瘡治療への影響について検討した-略-亜鉛キレート形成薬剤が多いほど創傷治癒遅延を起こす可能性が示唆された」
と考察をしている。
それぞれに討論すべきことはあるが、医療の現場での見事な観察で、視野の広い立派なお仕事であると思う。
褥瘡の主要な治療が『除圧と創傷治癒阻害因子の除去』の局所療法にのみ注がれてきて、褥瘡の発症・治癒遅延と微量元素亜鉛との関係や創傷治癒への亜鉛の重要性の知識が学会の中では殆ど普及していないと言ってよい現在の日本褥瘡学会において、これらの演題が選ばれたことは、大変に画期的なことと思われる。
それは、①②のいずれの演題も、臨床の現場での【褥瘡の全身療法(局所療法ではない)の報告】であることで、少数であろうとも日本褥瘡学会の中枢の会員の中に、褥瘡の治療に局所療法のみでなく、
全身療法の必要性 に気が付かれている方がいるからと思われる。
褥瘡の発症・治癒遅延に関しては、確かに、本学会でも、全身の栄養状態の低下が問題とされ、総タンパクやアルブミン値、ヘモグロビン値等の改善や一般的栄養の改善として、ビタミンやアミノ酸の負荷と共に亜鉛が取り上げられてはきた。しかし、その中で亜鉛は栄養学的に、一般的な一栄養素として扱われてきた。
亜鉛は創傷治癒はもちろんのこと、生命維持に必須なミネラルであるが、
大変残念なことに、現在でも大部分の本学会会員はその多彩な生体内機能の重要性について、殆ど知らないのが現実の様である。
亜鉛が全身療法としてこれまであまり重要視されてこなかった主要な原因は、栄養素として食事療法の中に位置づけられて来たからと考える。
褥瘡と亜鉛の関係はこの『褥瘡と亜鉛と学会』のシリーズの中で、今後も述べて行くが、
褥瘡は【皮膚の表皮、真皮、皮下組織の三層全層にわたる、亜鉛欠乏による皮膚の健常な生成・維持の障害の結果】であり、亜鉛欠乏症の中でも強度の欠乏状態と考えている。
鉄欠乏性貧血でも、軽度のものは食事療法が適切であるが、重度のものではかなりの量の鉄剤の投与を必要とする。
褥瘡においても、治療には通常の必要量の数倍の亜鉛量の補充が必要で、食事内での亜鉛の増量では不充分であった。栄養士の方々が努力されても、なかなか十分の効果か出なかった。
ただ、褥瘡の予防や治療後の再発予防に、亜鉛と充分な栄養・食事が大切なこと言うまでもない。
【大部分の褥瘡は、亜鉛補充の全身療法と適度な局所療法で比較的容易に治癒する】ことを、
是非、多くの褥瘡患者の治療に携わる日本褥瘡学会の会員方々には追試をいただきたい。
これまでの褥瘡学会が積み上げた局所療法に亜鉛の補充を追加する方法から始めていただくのでよい。
是非、血清亜鉛値を測定する論理的亜鉛補充療法で追試をし、問題があったら厳しく批判していただきたいと思う。詳細は、亜鉛欠乏症のホームページを参照。