【いわゆる舌痛症と薬剤】

日付: 2023年10月18日

患者 T.Fさん 紹介状

 貴院に高血圧、高脂血症で通院している患者さんですが、よろしくお願いいたします。

 下記、診療略歴のごとき、症状経過のいわゆる舌痛症の患者です。 小生、2002年秋に、多彩で、多数の亜鉛欠乏症の存在に気が付き、以来、今日まで20年間、その知見の周知に努めて参りました。その多彩な症状・疾患の一つ、いわゆる舌痛症の患者です。

何故?亜鉛不足が生ずるのか。2002年の当初は食物の影響を主に考えてましたが、最近、医療を受けてる方には、次第に常用・連用薬剤の影響が強く見られること判ってきました。

まだほんの少数の者しか知らず、殆んどの医師・薬剤師も薬学者にも知られていないのが現状ですが、亜鉛欠乏症の追跡から意外に多くの薬剤が関係してることが推測されます。

診療略歴とコメントに資料を付けさせていただきました。貴院でまとめて総合的にご加療いただくのが適切と考え、紹介いたします。

亜鉛欠乏症のホームページの掲示板にPDFファイルで保存してある、旧TeaCupの掲示板 亜鉛欠乏症について内の『亜鉛欠乏症を起こす可能性のある薬剤の表 (その1)(その2)』

を資料として添付します。

【旧掲示板(Tea Cup)のPDFファイル】

keijiban.pdf (ryu-kurasawa.com)

なお、

【亜鉛欠乏症のホームページ】

亜鉛欠乏症ホームページ (ryu-kurasawa.com)

【東御市立みまき温泉診療所HP】

東御市立みまき温泉診療所 (city.tomi.nagano.jp)

【現代日本の国民病 亜鉛欠乏症】

現代日本の国民病 亜鉛欠乏症 | 倉澤 隆平, 尾形 道夫 |本 | 通販 | Amazon

などもご参照いただければ幸いです。

【T.F. 女性 86歳】【初診:20**.08.10】

【既往歴】高血圧、高脂血症 

【主訴・現病歴】舌痛 約1年前ごろより、月に1回(時に、2~3回)2~3日間続く、

口腔内のヒリヒリした痛み。右頬部内側から歯肉にかけて、径5cm程の範囲。口腔内の痛みは、就寝時なし、食事可能、何かに意識集中時、痛みを感じないなどいわゆる舌痛症に共通しています。その他は食欲良、倦怠感や皮膚科症状などなし。

医療者と共有でき難い奇妙な口内痛の訴え以外に何の特別な所見がないのが特徴です。

【薬剤・医療関係】約10年余前ごろより、HL;ビブラスタチン、HT;アムロジン服用。

【コメント】口腔内痛が時々であること、舌でなく頬部から歯肉にかけての痛みである。食欲、皮膚症状など、その他の亜鉛欠乏症の症状はないが、痛みの性状、発症パターン、連用の薬がそれぞれ典型的な亜鉛欠乏症の易発症薬に含まれるので、亜鉛欠乏症の可能性ありとして、採血検査をしました。

【治療経過】

2022/08/10 初診で一般血算・血液検査と血清亜鉛値検査。口腔内に肉眼的異常所見なし。一般検査は基準値内。 (データは数日後に結果判明・以後青字で追跡)、 Zn:79 Al-P:69。

22/08/24  2週後の受診。症状は亜鉛欠乏症の疑い強く、Zn:79(69)と比較的高目であるが、亜鉛欠乏症として、プロマックD錠75(以降P:75Dと省略)による標準の亜鉛補充療法の試行を開始する。(P:75D×2T/朝夕分2錠(Zn量34mg/日)の標準的亜鉛補充療法)

22/09/21 補充療法開始後に、特別の問題なく、これまでの口内痛は発症しないと言うが、発症頻度が月に1~3回であるので、治療開始後1ケ月の検査と補充療法の継続とする。亜鉛不足の場合では、急上昇の筈であると話す。確かに急上昇しました。 Zn:100(73)。22/10/26  2週前頃少しの痛み(短時間)あり、それ以外には問題なし。右肩部の掻痒+と。

 (一般に多くの亜鉛欠乏症では2ヵ月後に亜鉛値は一時低下傾向ですが。)Zn:135(73)。

22/11/21  その後口腔内痛は発症せず。その他に特別の変化なし、検査では Zn:135(80)。

血清亜鉛値高値は併用薬剤ためか?(キレート作用による不活化Znが+されてか??)

23/01/25は大雪で受診不可であったが、その後も舌痛の発症なしと言う。

23/02/01  その後も痛みの発症なく、その他特別の変化もなし。患者の亜鉛欠乏症の理解は良好なので、本日より補充療法を中止して、経過を追跡することに。  Zn:104(80)。

  (ただ、検査値は後日判明なので、まだ、P:75D×2T投与中のデータなのに、何故低下か?)

23/04/03  その後、3月に1日少し口内痛発症と言う。HL、HTの薬剤は服用中であるので、

中止のP:75D×1T/日(Zn量17mg/日)を維持量として、復活継続することに。Zn:93(73)。

   (22/02/01からの検査値の変化は一応予測通りである。)

23/05/10  その後舌痛発症なし。05/07 何故か?嘔吐と投薬3日(+)で、06/05に検査延期。

23/06/05  その後舌痛の発症なし。P:75D×1T/1回昼/日を維持量とし継続、冬になる前に、かかりつけ医のDr.Gに紹介する方向で検討する。                         Zn:95(79)。

23/08/07  04/03 より、P:75D×1T/昼1回/日の維持量で、症状も安定し、血清亜鉛値の

動きも安定か?本日のデータと経過を見て、10月には紹介したい。      Zn:96(70)。

  (ただ、07/12 某医療センターの検査で、骨粗鬆症の予防にと薬剤処方されたと言う。)

23/09/04  舌痛他、特別の変わりなし。 アンドロレン酸、絶対必要か?検討を!    Zn:91(62)。

23/10/02 自覚的に変わりなし。骨粗鬆症の検査70~100%と。出来れば中止を  Zn:94(65)。

当然、データに揺れあるが併用薬(+)で、P:75D×1Tでは不足傾向。2T服用で紹介。

【ZnとAl-P値の変動のまとめ】

Zn:79(67)(08/10)=>(08/24-P:75×2T~)=>100(73)(09/21)=>135(73)(10/26)=>135(80)(11/21)=>104(80)(02/01~0T)=>93(73)(04/03~1T)=>95(79)(06/05)=>骨粗鬆症薬 (07/12~)

=>96(70)(08/07)=>91(62)(09/04)=>94(65)(10/02~2T~)=>紹介状

【コメント】

いわゆる舌痛症としては、部位的にはやや典型的ではないが、症状の経過、痛みの性状の食事や睡眠、意識等との関連性等から、また、亜鉛補充療法による血清亜鉛値の動きでも、亜鉛補充療法直後からの治療効果も、いわゆる舌痛症で良いと考えています。血清亜鉛値のやや高い傾向は、固有のものか?または薬剤性のためか?との鑑別を考えたのですが、

MIMAKI Dataに、2008/11/04 及び2016/03/09 何れも掻痒を主訴に受診し、Zn:80、Zn:91と比較的高目であったので、当時としては、まだ、比較的高値の欠乏症は考えておらずに、非治療としていました。外来で多彩な亜鉛欠乏症、特に、舌痛症や食欲不振など、多数の難治症例に多剤服用症例が多いことに気付いてはいましたが、気を付けて治療経過を追跡していると多くの薬剤が関係していること判ってきました。参考までに、味覚障害を研究されていた富田 寛先生の本に、関連する薬品の資料がありましたので添付しておきます。参考になればと思います。多くの薬剤の存在に驚かれたことかと思います。幸い、本例は関係するかも知れない薬剤は二剤で、共に関与しているのか、どちらか一剤か不明ですが、亜鉛補充療法で舌痛は容易にコントロールされる様ですので、また、その他に食欲不振や皮疹など皮膚の合併症もなく、年齢も年齢ですので、このままでもよいかとも考えます。

ただ逆には、それぞれの対象の薬剤の効果に問題が出てないのか?必要ありそうでしたら以後よろしく、ご検討を含めて追跡をお願い出来ればと考え、紹介いたします。

(この症例は併用薬剤と相互作用のある亜鉛欠乏症で、補充療法時の血清ZnとAl-P値の変動に意味付けの可能性が見出せるかも知れない症例かと考える。別稿で検討します。)

【体内での薬剤の相互作用】

最近でもまだ、大部分の医師や薬剤師、薬学者も知らないことですが、元素亜鉛と多くの化学物質とのキレート作用のことが知られる様になり、亜鉛と医療薬剤のキレート作用や体内外での反応のことが少しずつ判ってきました。ただ、総ての人に起るのでなく、反応の場にある【人】にもよる様で、稀なものから確率の高い薬剤もある様ですが、まだまだ、判らないことだらけです。小生が現時点で、診療所の外来でしばしば気が付いているのは高脂血症薬、PPI、種々の精神安定剤やうつ病薬、骨粗鬆症薬等などですが、特に、多剤服用患者ではどうしても確率が高まりますし、もっと多くの薬剤があるでしょう。

たまたま、血清亜鉛濃度が容易に測定可能なので判明したのですが、他の多くの薬剤同士では、どうなっているのか?全く不明と言うべきです。

現在では、亜鉛欠乏症が発症した場合や亜鉛補充療法で何か問題が予測される場合には、その可能性のある薬剤を一つ一つ、チェックしてみるのが大切と考えています。

そして、併用された薬剤が本当にそれぞれの薬理効果があるのか?ないのか?問題です。