論理的亜鉛補充療法の実践(Ⅵ) ~臨床症状の変化と血清亜鉛値等の変動の追跡~①

日付: 2017年7月5日

 

 

5/8の 【論理的亜鉛補充療法(Ⅴ)で標準的処方の亜鉛補充療法を開始した】 を投稿して、

暫くお休みをいただいた。

 

 

 

2002年に、多数で、多彩な亜鉛欠乏症の存在に気付いて15年。

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当初は、

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体内にたった2~3g 含まれると言う微量元素亜鉛の欠乏症などあるはずがない。

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とか

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たった一元素の欠乏で、そんな多彩な欠乏症など起こるはずがない。

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と、時には紹介の論文をポンと投げられ、拒絶反応さえ示されることもあった亜鉛欠乏症について、

流石に、15 年も経つと徐々に受け入れられるようになった。

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昨年末、

10/9 の 第30回日本臨床内科医学会総会や

11/26 の第61回日本口腔外科学会総会でのMSやRSでの約一時間の講演では、

何れも二回目の講演のこともあるが、立ち見の出る盛会となり、

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今年に入って、

5/18 の神奈川県保険医協会の月例研究会や

6/4 の第116 回日本皮膚科学会総会MS、

6/18 の第66回日本医学検査学会総会RSも、

これらも何れも二回目のこともあってか、前回よりもさらに多くの立ち見が出るような盛会で、

関心の高まりが次第に強くなったように思う。

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そんな学会が集中したことに加えて、

日本医事新報社や医学書院の『検査と技術』誌からの原稿依頼等などで、

79 歳の年寄りにしては少し忙しく、投稿を暫く休ませていただいた。

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しかし、日々の診療所での受診患者さんの中には、

舌痛症や皮膚疾患等などを抱えて、遠く関東や大阪からも受診される方もおられる。

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更には、亜鉛含有胃潰瘍薬のプロマックが十年余も前に保険適用とされた長野県下からも、

いや佐久地方からさえも、どこの医療機関でも治らぬとやってこられる方もいる。

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医師にその知識と亜鉛欠乏症でないかと疑い、気付く感性さえあれば、

その大部分の患者さん達が簡単で、安全且つ安価な亜鉛補充療法で容易に、

その苦悩から解放してあげることができるのに、

まだまだ、医師等の二割にもこの知見は浸透していないのだろうと思う。

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そこに、最近、血清亜鉛値の絶対値で診断をするようなデジタル思考

診断指針】や【低亜鉛血症】などと言う(どんな定義なのかも不明な疾病?)の概念が出て、

大変に困惑している。

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さて、本題に入ろう。

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【亜鉛補充療法の効果の発現と軽快・治癒に要する期間は症状・疾患により異なる。】

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日常しばしば経験する食欲不振、味覚障害、舌痛症について

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食欲不振

亜鉛欠乏症による食欲不振は、大部分が1~2週間ほどの短期間で回復することが多い

翌日にも回復する症例もあって、その効果の発現は劇的であり、

多くの症例で、患者がハッキリその効果を意識することが多い。

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低亜鉛含有の飼料による動物実験で、摂食量の低下は昔から認められており、

亜鉛の追加により摂食量は短期に回復している。

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効果発現の早さから、亜鉛の摂食中枢などへの影響が予測されているが詳細はまだ不明である。

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食欲不振は味覚障害によるものとよく成書に記載されているが、味覚障害とは別であると考えられる。

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一方、短期の食欲回復とは別に、亜鉛補充療法でいつの間にやら食欲が増進し、

食事量も増加し、体重も増加する症例も多く、消化管系の細胞の新生や消化器系酵素の活性や

ここでは味覚障害の回復なども関係しているのかも知れない。

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原因の定かでない食欲不振の大部分入院などで食欲が低下している症例

特に食べないからと胃瘻を増設された症例などは、殆ど亜鉛欠乏症であること多く

胃瘻は本来不要のことである。

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食欲不振は意外と意識されていないこと多く、元来、小食とか、少食の傾向とか、

空腹感が無いのが常態となっていることも多く、他の症状での亜鉛補充療法で、

潜在していた食欲不振が早期に回復し、目的とした症状が亜鉛欠乏症である傍証となることもある。

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食欲不振への亜鉛補充療法は、単独症状としての発症では、症状の改善と補充の完了及び

亜鉛欠乏原因の追求であるが、患者が治療効果が良く自覚できるので、中断ででも良い。

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味覚障害

味覚障害は 数週から数ヶ月を要する とされている。

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味覚障害は主観的な症状で、現行の味覚検査でも、なかなか客観的に評価できないので、

治療効果の評価は難しい。  味覚障害は特殊なものを除いて、亜鉛欠乏症と考える。

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しかし、潜在的食欲不振の解消や血清亜鉛値等の変化と合わせて、この味覚障害は

亜鉛欠乏と考えられても、治癒経過が燻り、すっきりしない症例は何割か存在する様である。

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特に、多剤服用例は判定が困難なこともあり、更に旨味の改善など全く主観的なことで、

年余を超えての経過追跡例もある。

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味覚障害の発症機序は味蕾細胞の変化や関係の酵素系、味覚神経のことなど多くの研究があるが、

省略する。

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舌痛症

舌痛の他に舌に肉眼的異常所見を認めない【いわゆる舌痛症】は、舌痛の症状のみでの発症もあるが、

多くは種々の口腔内違和感や味覚障害、潜在的食欲不振の合併やアフタ性口内炎や口角炎等の

亜鉛欠乏症状の既往などのあることがある。

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いわゆる舌痛症は口腔内が火傷したように全体がピリピリ、ヒリヒリと痛むと言うものから

舌背の痛み、舌の縁から舌尖が痛むというもの、そして舌尖のみ痛むまで、

また、痛みの強さも耐えがたい痛みから気が付くと痛みを感ずる、

痛みの範囲、強さも種々の組み合わせがあるが、その何れもその殆どが亜鉛欠乏症であると言ってよい

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1~2 週間で劇的に治癒した症例もあるが、多くは徐々に痛みの範囲、強さが軽くなり、

時々忘れる時が生じ、忘れる日が生じ、またぶり返しては、それぞれの程度が軽快して、

4ヶ月から半年前後で治癒することが多い

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中には少数例であるが、半年以上から年余にわたる難治例があり

昔は、発症機序が異なるものかと考えていたが、

最近、舌痛症に限らず、亜鉛とキレート形成などの薬剤、

特に多剤服用者に多い傾向があるようで、今後の追跡が必要である。

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いわゆる舌痛症に関しては、歯科や口腔外科学会、口腔診断内科学領域では、

これまでその発症原因を真菌感染としたり、心療内科的な精神・心の問題としたりされてきたが、

筆者の症例集計では、少数例外があろうともほぼ亜鉛欠乏症として良いと言える

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これまで亜鉛補充療法で治癒・軽快しない舌痛は、一例は帯状疱疹発症時のものと三叉神経痛で

神経節ブロック等の治療経過の中で三叉神経痛とは別の舌痛を訴えている一例などの数例で、

その他は、軽快してもすっきりせず燻る多剤服用例で、薬剤の整理・中止など、困難であるが

論理的亜鉛補充療法で解決の方向に向くものと思っている。

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なお、舌や口腔内粘膜に肉眼的異常所見を認めないいわゆる舌痛症以外に、

口腔粘膜に異常所見を認めた(病理組織診断もされている二症例ふくめ)白斑症、

口腔扁平苔癬で、舌痛のあった症例も、

亜鉛補充療法で治癒追跡していること、まだ数例であるが、付記しておく。

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多くの症例を持たれている医療機関では、是非追試していただきたいと思う。

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参考)

Nozaki T.et al.Zinc alleviates pain through high-affinity binding to the NMDA receptor NR2A subunit.  Nature Neuroscience.2011 14. 1017-1022.

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