第18回日本褥瘡学会学術集会に参加して(Ⅲ)
日付: 2016年10月21日
【臥床すればすべての人に褥瘡が発症するものではない】
ことは常識である。
そのことに褥瘡の治療に携わった多くの人は気が付き、考える人は疑問を抱いているはずである。
日本褥瘡学会編の褥瘡の定義は
「身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状態が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる」
とされている。
確かに、褥瘡の好発部位は外力と骨とに挟まれた軟部組織の部位に存在するし、
痩せた人に発症し易い傾向にある。また、栄養状態の悪そうな人に発症し易いことも事実である。
が、時には、肥満で〝いわゆる一般的栄養が良好な人にも発症する。
勿論、褥瘡の発症の要因は個体要因や環境・ケア要因など種々の多彩な要因が積み重なって発症していることは、どなたにも異論がないところではある。
学会の挙げる種々な個体要因も、それぞれに網羅されているが、個体要因の栄養状態の中で、
【表皮・真皮・皮下組織などの亜鉛欠乏による代謝の異常からの皮膚及び皮下組織の非健常状態、または潜在的非健常状態が褥瘡発症の主要因である】と、筆者等は十数年来、主張をし続けてきた。
勿論、一般的な栄養状態の指標でもある総タンパク値やAlb値、Hb値は良いに越したことはないが、
極端な低栄養状態でなければ、亜鉛欠乏による異常な低代謝状態を改善すれば、褥瘡は治癒する。
そして、また亜鉛の不足を改善して、維持すれば再発予防も可能であり、適度な局所の除圧や介護処置があれば充分である。
潰瘍を発症する病態は種々あるが、褥瘡に関連しては大きくは以下の四点で検討する。
①.巻き爪や義足装着部などの慢性の外力(物理的圧)が主要因のもの、
②.動脈硬化による比較的太い動脈系の閉塞や狭窄による末梢の血行障害、
③.ビュルガー病の様な閉塞性血栓血管炎、
④.糖尿病壊疽の代謝障害による末梢血管の不全
が主要な血行障害が挙げられる。
①は局所の外力のみによる障害であり、除圧で簡単に治癒する。
②③は動脈の器質的閉塞が主要因であり、その動脈の支配領域に発症する局所性のものである。
④は、四肢末梢の好発部位はあるが、手指や足趾その他でも、主に傷を機に発症し、
その創修復の課程で代謝障害によると考える末梢の血行障害も加わって、壊疽が進行・難治化する。
【褥瘡の血行障害は、外力による微小血管が閉塞した組織の阻血性で、①②③とは異なり、外力がtrrigerとして作用し、④の糖尿病性壊疽の様な代謝の異常が主な要因であろう】と考えている。
はじめ外力の圧による細血管レベルの局所の阻血であるが、局所の阻血性障害からのPHや化学的変化から組織や細胞の障害へと悪循環したものであろうことは、日本褥瘡学会の説明と同じである。
が、その血行障害を引き起こす基は、仮説であるが、筆者は【亜鉛欠乏による血管内皮細胞の機能障害】であろうと考えているが、如何なものであろうか?
これまでの日本褥瘡学会は褥瘡発症のそもそもの始まりについて、何故?なかなか褥瘡が発症しない症例があるのか?
また、何故?それ程容易に組織が不可逆的な阻血性障害になる症例があるのか?については思考停止状態で、充分説明されてこなかったと考える。
【褥瘡は、亜鉛欠乏による非健常な状態にある、または潜在的非健常状態にある皮膚及び軟部組織に、外力が加わることにより、その血流を低下、あるいは停止させる。この状態が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる】とすれば、褥瘡の発症、難治化の現象をより矛盾なく説明できると考えるが如何であろうか?。
尚、亜鉛と創傷治癒の関連については、深田俊幸論文など亜鉛トランスポーターに関する分子生物学的最近の成果を参照いただければと考える。