症例名:<考察> 【難治褥瘡例の検討】

日付:2016年10月14日

 

 

常識に反して、

多くの褥瘡の主要因は亜鉛欠乏であり、殆どの褥瘡は亜鉛補充療法で治癒する

と主張してきた。

しかし当然、褥瘡は多くの要因が複合して発症してきているものであることは事実で、亜鉛を主要因としない褥瘡があることは容易に予想される。

 

例えば、死直前の褥瘡は、多くの複合した要因に加え、酵素系の機能停止やホメオスターシスの崩壊による死に行く生体の諸段階の機能停止状態に因るもので、発症したら治癒は望めない。

その他にも、亜鉛欠乏を主要因としない褥瘡があり得るはずで、その要因を症例にそくして分析、追跡して行きたい。

 

これまで、褥瘡の発症要因として、局所の圧迫による循環障害と栄養障害(特に、アルブミン値の低下、Hbの低下等)が重要視されていた。勿論、循環障害と栄養障害は その原因の一要素であることは間違いないが、私共は現在、褥瘡の主要因はZn欠乏であると考えている。

ほとんどの褥瘡は亜鉛補充療法で治癒するとしてよいが、当然、少数であるが亜鉛欠乏を主要因としない褥瘡が存在することは事実で、その条件を今後追求して行こうと、私共は考えている。

 

 

 

亜鉛欠乏を主要因としない褥瘡

死亡直前のもの

全くの介護放棄のもの

広範な感染を伴うような特殊なもの  

等は亜鉛を主要因としていないものと考える。

 

その他

糖尿病

脊損例

極端な低栄養例

など検討を要すると考えている。

大部分の褥瘡はまず亜鉛補充療法で、治療を開始することで間違いない と考えている。

 

 


 

深田論文

 

2002年の秋からの臨床の経験を通して、『多くの褥瘡の主要因は亜鉛欠乏であり、殆どの褥そうは亜鉛補充療法で治癒する』と主張してきた。

 

しかし、何故治癒するかの機序については、DNA.RNAポリメラーゼや諸蛋白合成等々の亜鉛酵素の活性化や亜鉛の生体内の多彩な機能による細胞の新生や組織の生成.維持の活発化によるものであろうと、漠然と考えていた。
しかし、2008年11月に発表された下記の深田等の論文から、亜鉛の欠乏が褥瘡の発症.治癒の機序の一部や皮膚の脆弱さの臨床での現象が分子生物学的に見事に説明された。

 

 

亜鉛トランスポーターZIP13の役割

亜鉛欠乏の症状は生体内での微量元素亜鉛の多彩な作用機序によるものであるが、その生物学的な役割はこれまで殆ど明らかにされてきていなかった。

 

最近、下記の理化学研究所 免疫アレルギー科学総合研究センター サイトカイン制御研究グループの深田俊幸等により、亜鉛トランスポーターZIP13のノックアウトマウスを使用して、骨.歯.皮膚等の結合組織発生に関わる亜鉛の関与の一端を分子生物学的に示した論文が発表された。

 

これは、褥瘡の発症、治癒の臨床的経過の一部を見事に説明する発見であり、臨床と基礎をつなぐ大変大きなニュースである。

 

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結合組織における亜鉛トランスポーターSLC39A13/ZIP13の役割;SLC39A13/ZIP13はBMP/TGF-bシグナル経路の新しい制御分子である。

 

亜鉛は骨・歯・皮膚等の結合組織に比較的豊富に存在する必須微量元素であるが、その生物学的役割は明らかにされていない。

我々は、亜鉛の意義を検討する目的で、今まで機能が解明されていなかった亜鉛トランスポーターの一つであるSlc39a13/Zip13のノックアウトマウス(Slc39a13-KOマウス)を作製した。

 

Slc39a13-KOマウスは成長遅延をはじめ、骨・歯・眼・皮膚等の硬組織および結合組織において劣性遺伝的な進行性の異常を発症した。

Slc39a13/Zip13タンパク質は、骨芽細胞、軟骨細胞、歯髄由来細胞および繊維芽細胞等のゴルジ体に局在し、Slc39a13-KOマウス由来の細胞では細胞内亜鉛分布状態が変化していた。

さらに、Slc39a13/Zip13はBMP/TGF-bのシグナル伝達経路において、 Smadタンパク質の核移行を制御していることを発見した。

 

一方で我々は、Slc39a13-KOマウスと類似した症状を示す新規エーラスダンロス症候群の患者を見出し、遺伝子検査によってSLC39A13/ZIP13のloss of function変異を発見した。

 

即ち我々は、亜鉛トランスポーターSlc39a13/Zip13がマウスとヒトの結合組織の発生に重要であること、その変異はエーラスダンロス症候群の原因になること、さらにBMP/TGF-bのシグナル伝達に関与していることを明らかにした。

以上の成果は、Slc39a13-KOマウスの結合組織の発生と疾患の解明の為の新たなモデル動物としての価値と、亜鉛とその恒常性がどのように結合組織の発生に関わるのかその仕組みの一端を示すものである。

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褥瘡症例1の例である。

これまでに、亜鉛欠乏症と考え得る下痢や褥瘡の発症があり、しばしば治療を中断していた例である。
2005.05.09.

ショートステイ入所時に、左踵部の難治と考えられる進行した褥瘡と臀部の軽度の褥瘡が認められて、診療所に紹介された症例である。
入所時、踵部の難治傾向と考えられる、感染を伴うブヨブヨした周辺組織と中心部に大きな壊死を伴う褥瘡と臀部の初期の褥瘡の合併例である。
亜鉛補充療法で、臀部の褥瘡は1週前後で治癒し、それ以後の踵部褥瘡の経過で、補充療法約一週後の04.19.周辺組織が何となく締まり、炎症が治まり、痂皮も少し締まってきた。
一ヶ月後の05.09.には、もうすっかり周辺の炎症はなく、痂皮も明らかに縮小。

同日、デブリして、ピンボケだが05.23. そして、約3W  05.30.までの経過である。

その後、在宅にて2W後06.15.頃、治癒とのこと、及び、その後の経過である。
この様な急速な瘡の収縮を示す治癒経過は驚異的な早さであり、外胚葉系の表皮よりも中胚葉系の結合組織の修復が大きく関与していることを示している。
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在宅、ほぼ寝たきり、ほぼ独居状態の低栄養患者に生じた右大転子部の褥瘡細菌感染を伴う炎症と膿瘍で皮下結合組織はほぼ溶解し、筋膜に達する欠損状態である(06.30.)。

 

炎症が急速に治まり浸出液が減少し、ベロベロとした瘡面が何となく引き締まって、ベロベロ感が消え、皮下の結合組織が急速に盛り上がり、瘡が収縮締まって、その上に上皮化が進む状況が見て取れよう。如何?
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脊髄損傷後四年半後に、車椅子や自動車に移乗時に感覚がないため外傷性のザクザクとした裂創が発生するようになり、種々の局所的治療を続けたが、6年余にわたり、繰り返し繰り返し裂創が発症して、褥そう様になった症例。
皮下の結合組織脆弱さが亜鉛欠乏により生じたものと言えよう。

 

 

 

膿瘍形成例

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2005.08.   

脳梗塞にて、右半身麻痺の患者。徐々にADLの低下を認める。

気力なく、ほぼ寝たきりで、ベット上座位保持可。体位自力変換難。

介助により、車椅子移乗可、自走不可。

介護状態は妻、月2回の各1週のショート.ステイ。

 

 

2007.05.   

右大転子部に小褥瘡発症。プロマックの投与開始。

Zn:61  Al-p:343  Tp:7.1  Alb:3.8

 

 

2007.08.  頃より、体調崩し、09月には、尿路感染症にて、入院。

 

 

2007.10.13.

仙骨部に褥瘡発症。 10.26. 黒色肉芽をデブリ。
2007.10.30.

6 x 5cmの膿瘍を認められて、切開排膿。大量の膿の排出あり。

切開口は2cm径の穴をあけ、生食500ccで充分洗滌する。

菌血症予防として、クラビット 200mg x 2Tの投与を行う。

 

 

2007.11.05.

浸出液きれいで、肉芽もきれいなものとなるが、ポケットは深い。

 

 

2007.12.14.

開口部はどんどん縮小するが、仙骨前面に径4cmのポケット。

 

 

2007.12.18.

ショート.ステイ入所時。創口は閉鎖しており、液体貯留を触知する。

現在、感染が認められないので、膿瘍形成時には速やかに、切開排膿することとして、経過観察。

 

 

2008.01.07.

ショート入所時。液体の貯留殆ど触知し難くくなり、感染もなし。

 

 

2008.05.01.

Zn:79 Al-P:300

 

 


死亡直前の褥瘡症例

亜鉛欠乏を主要因としない褥瘡

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数年来、食欲不振、下痢、掻痒症等繰り返していた症例。
2004.01. 褥瘡発症。

褥瘡治癒後、Penphygoido様皮疹も発症、治癒後約一年間、褥瘡や皮疹の発症なく経過後、

全身状態悪化とともに2005.03.発症の褥瘡、治癒せず死去された症例。

 

 


今後次々と症例を載せていく予定です。

 

 

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