局所療法に偏重する日本褥瘡学会を批判する(Ⅰ)

日付: 2018年1月18日

~褥瘡の発症及び難治化は亜鉛欠乏による皮膚の脆弱(性)化が主要な原因である~

 

昨年盛岡で開催された第19回日本褥瘡学会の理事長講演で、川上重彦先生は、1998年第1回学術集会開催当時、褥瘡とは形成外科的手術対象の疾患とされていたが、臨床での事実と経験の積み重ねよりの仮説と緻密な思考から『除圧と創傷治癒阻害因子の除去』の局所療法の理論と技術を発展させ、さらにまた、褥瘡と戦う組織とシステムをも構築し、会員8000名余の学会となった。今後の課題は終末期の褥瘡や皮膚の脆弱性等の全身的要因の研究であると話された。1昨年、小生は第18回日本褥瘡学会学術集会に参加して(Ⅰ)~(Ⅶ)と題して、川上先生が述べられたごとく、日本褥瘡学会が褥瘡の局所療法について、『除圧と創傷治癒阻害因子の除去』の局所療法の技術と理論を確立し、さらに、褥瘡治療の組織とシステムを着々と築き上げて、褥瘡医療に果たした役割に敬意を表す者です。

 

しかし、【現在の局所療法に偏重した褥瘡治療では、まだまだ、褥瘡問題が解決した】とはとても言えず。【問題があるからこそ8000名もの会員が集まる】もので、【学会が十分に機能していない】とも言えるのでないかとも、医療の現場で考えます。【褥瘡の発症と難治化につき、局所のみに重点を置いていることは間違いであり、全身的要因をもっと研究すべきです】。正に、川上先生の言われる【何故?終末期発症の褥瘡はより難治なのか?】【皮膚の脆弱化が何故?起こるのか?】の問いの中に答えはあると私は考えています。

【健常の皮膚の生成と維持の破綻の全身的要因に注目すべきです。】

 

会長講演でも、武田利明先生は、緻密な計画に基ずく動物実験の基礎研究から、局所への圧力やズレによる虚血の組織障害や範囲を示す納得のゆく成果を述べられましたが、【病的な実験動物】をご使用とのこと、【病的な実験動物】とはどの様な状態なのか?質問できず不明ですが、

健康な実験動物では、技術的に適切で持続的な圧が維持できないこともあろうが、むしろ、【健常な実験動物】では、多少の持続的圧で褥瘡が発症しないとも言えるのではないか?皮膚の健常な代謝状態が障害されての皮膚の脆弱性も考慮すべきで、先生の緻密な計画に【亜鉛欠乏のみ、(他は健常な)実験動物】を使用された基礎実験をお願い出来ればとも思いました。

 

現在の日本褥瘡学会では褥瘡発症と難治化の要因に全身的要因が絡むと予測しつつも、亜鉛はビタミン、特殊なアミノ酸や一般の栄養と同レベルの単なる一栄養素にとどまり、亜鉛が生命に必須のミネラルで、多数の酵素活性に影響し、線維芽細胞の活性化や諸創傷治癒因子の正常化、健常な皮膚の生成・維持に関わる等々の多彩な生体内機能の存在が理解されていない、と言える。

亜鉛補充療法による数々の褥瘡治癒症例や最近の分子生物学的亜鉛生物学の基礎知見を提示し、現在の褥瘡学会の局所療法の成果に、学問的全身的要因の知識を加え、褥瘡の治療と予防をより確実にすべく、第20回日本褥瘡学会の公募シンポジウムに亜鉛栄養治療研究会として応募したが、学会本部より残念ながら不採用の通知を受けた。
学会本部の不勉強の結果と小生は思うが、きっと学問的にも技術的にも、より画期的新知見のシンポジウムが組まれるのであろと思う。第20回日本褥瘡学会の公募シンポジウムでは、その素晴らしいシンポジウムに期待をすることにしようと思う。

 

【褥瘡の治療には、全身療法と局所療法のバランスある治療法の追及が必要である。】

今後本HPでは、現在の日本褥瘡学会の常識ではあるが、何点かの問題点を上げながら連載で、現在の日本褥瘡学会の在り方を率直に批判させていただきたいと思う。
学問とは、厳しい批判、率直な議論に耐えて、より間違いないものとなって行くものと思う。
内々の身内だけの学会は、如何に多くの会員を集め盛会に見えても、進歩が止まり、最終的には衰退するものと考える。

東御市立みまき温泉診療所 顧問 倉澤 隆平